新型アフリカツイン 試乗レポート
『XRVオーナーは、新型にアフリカツインの夢を見るか?』【2】
「そもそも、アフリカツインに『DCT』ってアリなの?」
次はやっぱりコレでしょう。今回は長文です。m(_ _)m
「そもそも、アフリカツインに『DCT』ってアリなの?」
『DCT(Dual Clutch Transmission)』について、詳しくは下記URLをご覧ください。
http://www.honda.co.jp/CRF1000L/movies/200.html
四輪では国内・海外メーカーが2ペダルMTとして様々なモデルを発売しているのはご存じのとおりです。ポルシェや日産GT-Rのようにスポーツ用途に振ったものもあれば、小気味よく走れるスモールカーに採用されているものもあり、すでに技術として定着しています。しかし、これが二輪となるとホンダ一社のみ。その独自技術を、新型アフリカツインにも搭載してきたわけです。
『DCTモデル』と『MTモデル』では、10万円・10kgの差があります。誤解を恐れずに言えば、新型を検討するXRVオーナーにとっては、10万円の差は長い目で見ればそれほど大きな問題ではないのかもしれません。しかし、アフリカツインを『オフロードバイク』として捉えたときに、10kgの差は数値的に無視できない。自分もそう考えている一人です。
試乗会において、最初に自分はMT車でオフロードコースに入りました。その時の新型の進化ぶりには圧倒されたのですが、その話はまた改めて。そして、たまたまDCT車が空いていたため、そちらにも同じコースで乗ることができました。二度三度と左足がペダルを探して空振りしたのはご愛嬌。しかし、左手が一度もクラッチレバーを探したことはなかったのです。これが何を意味するかといえば、「半クラッチの必要性を一切感じなかった」ということ。ビッグオフでダートを嗜む方であれば、進行方向に伸びるぬかるんだワダチには多少なりとも緊張を強いられるものと思います。また、タイトなヘアピンコーナーでは、立ち上がり加速に向けて軽くクラッチに指をあてる方もいらっしゃるかと。しかし、今回のDCT仕様においては、驚いたことにその気遣いは完全に不要でした。
さらに、もっと意地悪なシチュエーションとして、極低速でのフルロックターンを試してみたところ、これも問題なくクリア。ちなみに新型のハンドル舵角は、RD07の左右40度に対して左右43度と、倒立フォークを採用したにもかかわらず増えているのですから、どれだけの小回りかご想像いただけるかと思います。DCTのクラッチが繋がるタイミングについては最初慣れがいるかもしれませんが、丁寧なスロットル操作を心掛ければ問題ないでしょう。リアブレーキを軽く引き擦って速度調整するという基本は、MT車でも同じことです。
DCTの物理的メリットは、次のギアが常時スタンバイにあることによる、シフトショックとタイムラグの最小化といえます。駆動トルクの変動が小さければ、その分安定したオフロード走行が可能になります。先のわかっているオフロードコースはもちろん、これは林道走行においても一つの安心材料になります。また、アフリカツインのDCTは、スロットル開度・速度などの変化度合いから、そこが上りなのか下りなのかを想定してくれます。結果、上りでは低いギアを保ちながら力強い加速を、下りではATモードであっても理想的なシフトダウンによるエンジンブレーキをと、ライダーの心理にそった制御をしてくれます。
ダートでメリットが体感できるのなら、舗装路ではDCTの存在を忘れてしまいます。以前NM4-02というバイクでDCTを体験してはいましたが、ちゃんと乗るのは初めてに等しい自分が全く意識することなくDCTの恩恵を受けまくっていました。実は、オフロードコースも林道も、走ることに集中しているとDCTの『MTモード』の存在を忘れてしまい、一度もシフトアップダウンのスイッチに触ることはありませんでした。DCTにはスポーティーなシフトスケジュールに切り替わる『Sモード』もあり、ライダーの好みに応じて3種類から選ぶことができるのですが、『Dモード』でも十分すぎるほどに頭が良いです。
ソロはもちろん、タンデムライディングや渋滞のときにおけるDCTの快適性・利便性は計り知れないものがあるといえるでしょう。スロットルバイワイヤ(電子制御スロットル)やクルーズコントロールなどを装備していないアフリカツインが、敢えてDCTを採用したという事実。これは「オフロードでも最適化されたDCTである」ことの証明とも言えるでしょう。
DCTの話が長くなりましたが、MT車の進化もあなどれません。並列2気筒になったにもかかわらず、XRVと変わらないクランクケース幅で収めています。また、『アシストスリッパークラッチ』を採用することにより、クラッチレバーの操作過重が20%軽くなっているそうです。どのくらい軽いかというと、普段コースで乗っているYZ250FXと同じく、オフロードコースにおいて常に人差し指1本でクラッチを操作出来ます。半クラッチからの繋がりも掴みやすく、とても洗練されていました。乗りこなす楽しみを求めてMT車を選ぶ、というのも正しい選択だと思います。
オフロードでも全く違和感のないDCT車の仕上がりを体感したことで、正直少しだけ悔しい思いを抱いたことをここに白状します。実はすでにMT車を注文しておりまして、アフリカツインとDCTの相性に懐疑的だった自分は、良い意味ですっかり裏切られた形となったからです。物理的な10kgの差についても、今回の試乗において自分には体感できませんでした。子供とのタンデムツーリングを楽しむ自分としては、舗装路におけるメリットだけを考えたら、DCTを選ばない理由は無かったかもしれません。とはいえ、操作の軽いクラッチは、MT車を操る楽しみを倍加してくれることでしょう。
ちなみに、現時点の予約段階において、MT車とDCT車の比率はほぼイーブン。欧州においては、DCT車のほうが売れているとのことです。そして、われわれと同じく『アフリカ愛』に溢れた新型開発チームにおいては、DCT車のほうが購入者が多いとのこと。それだけに、DCTへの絶対の自信が伺えました。
どちらを選ぶか悩みの尽きない新型アフリカツインですが、例えばこう考えてはいかがでしょう。MT車は『新型の』アフリカツインを求める方に、そしてDCT車は『新世代の』アフリカツインを求める方のために。ミッションの違いを置いたとしても、新型のパッケージングがRD07から大きく進化しているのはすぐに体感できるものです。純粋なアフリカツインの良さを体感するには、プリミティブな操作が求められるMT車のほうが奥深さを味わえるように思いました。かたやDCT車は、「新たなオフロードバイクの未来像」をホンダが提示してくれたものと捉えています。進化のベクトルは同じでも、飛躍の仕方と方法論が違う。従来のXRVオーナーであれば、MT車を選ぶことは決して間違いではないだろうことは、ここに述べさせていただきます。
最大の功罪は、「ホンダがアフリカツインに、2種類のミッションを用意したこと」。本当に何という事をしてくれたのかと!待ちくたびれるほどに待ち焦がれた皆様を、とことんまで悩ませる選択肢を用意してくれたホンダに、感謝以上に恨み節が出そうです。(苦笑)
(続く)
by 内田さん
※このレポートは、あくまでも素人であるワタクシ内田による、試乗会における素直な感想と過去のアフリカツインや同カテゴリ他社車両を所有した経験からの考察を交えたものです。実際に新型を購入された方々が、異なる印象を持たれる場合も当然ございます。その点について、予めご容赦いただいた上で、一つの「読み物」として妄想を膨らませていただければ幸いです。
2016/02/17 17:02 初出